アート志向の高いインテリア小物やメンズライクな日用品など、個性ある商品を作り続ける日本メーカー〈PUEBCO〉。代表の田中裕高さんインタビューの後篇は、〈PUEBCO〉がブランドとして大切にしているマインドについてお話を伺いました。
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PUEBCOが3つ目に発売した商品「Empty Book」。 海外の古い書籍の体裁で、中が小物入れになっている。
〈PUEBCO〉のモノ作りは、
「漁」のスタイルを取っている。
—〈PUEBCO〉のモノ作りは鳥の装飾品とキャンドルから始まったわけですが、次のシーズンにはどのような展開をしたのでしょうか。
うちではシーズンという考え方を、当時もいまもあまりしていないんですよ。商品が売れてお金が入りますよね。そのお金で、次は何を買おう、何を作ろうという流れなんです。キャンドルの次は本の形をした小物入れを作りました。これも、それまでの2商品を扱ってくれる店が買ってくれるかを重視しました。
シーズンごとの展開にしないのには理由があるんですよね。バイヤーの方々によく説明するのは、うちは「漁」のスタイルを取っているということ。網をしかけて、獲れたものを築地や魚屋で売るスタイルなんです。常に工場に頼んで新商品のサンプルを40〜50商品は作り続けているんですが、いくつかの理由で途中で頓挫することがあります。型代やロット数、全体の見積もりが折り合わないこともあれば、商品の仕様そのものができないこともある。そのため商品がランダムに入ってくるので、このシーズンにはこういう商品を作りましょうというスタイルをとっていないんです。
〈PUEBCO〉のロングセラー。左上から装飾的なハサミ「Scissors」、
重量感のある鋳物の「Tape Dispenser」、フリーマーケットで見つけたものを原型に生まれた「Enamel Ware」、2年がかりで製品化した「Natural Frame」。
—では、それ以降はどのように広がって行ったのでしょうか。
本の形をした小物入れがある程度売れてきたときには、大きくは考え方がふたつありました。ひとつは取引している工場の技術で新しいものを作る方法。もうひとつは全く異なる新商品を作る方法です。まずはそれぞれの工場で新商品を試してみました。鳥のオブジェなら違う種類の鳥を。キャンドルや小物入れであれば違う形のものを。いろいろ試したんですけど、どれもうまくいきませんでした。それで次に全く違う方法で第4の新商品を作っていく流れになりました。
鍵の形をしたブラスのボールペン「Key Ball Pen」も、〈PUEBCO〉のロングセラーのひとつ。
フリーマーケットや骨董市から、
商品の原型アイデアが生まれる。
—それまでの工場ではなく、0から新しい商品を作るということですね。
商品を作る過程には3つあって、ひとつは展示会ですね。例えば、日本の大手企業も行くような中国の展示会。そこで原型となる商品を見つけて買い付ける方法です。うちの場合は、この方法はほとんど行っていません。2つ目は、展示会で見つけた会社や工場の技術を利用する方法です。工場に行って、展示会にはない商品や技術を知って、そこに「+α、−α」をして自社の商品として作る方法。そして3つ目が、骨董市やフリーマーケットなどで見つけた、「この商品、面白いな」というものを作る方法です。仕事で年間に世界10カ国ぐらいに行くんですが、フリーマーケットや問屋街には積極的に行くようにしています。そこで商品の原型を見つけて、こういう用途にしたら面白いかもしれないと考えて、工場でサンプルを作っています。大きくはこの3つの中で、やれるものからやっていくスタイルをとっていますね。
—商品を作る工場はどのように探しているのでしょうか。
起業当初は展示会で見つけたり大使館で聞いたりインターネットで探すぐらいでしたが、最近はだいぶコネクションができてきました。例えばインドなら各地域にその地域を取りまとめているキーパーソンがいるので、その人に相談して工場を探してもらっています。ただ、最終的には売れないとしょうがないので、お客さんに気に入ってもらえる商品を作るために何回も工場を変えることもあります。例えばいま、Sカンという100円ショップでも売っているものを作っているんですが、100円ショップよりいい素材を使って限りなくそれに近い価格で売らないと面白くないと思っているんですよね。価格面、仕様面でいいものを作るために、3社目の工場でサンプル作りをしているところです。
男性の一人暮らしに相性のよい「Trash Can」と「Toilet Brush」。
—アート要素の高い個性的なアイテムから事業を始め、現在ではメンズライクな日用品も多く作られています。それらはどのように始まったのでしょうか。
この商売を始める前にアートを集めて売りたいと思った時期があるんです。日本の会社は便利なものを作るのは得意ですけど、アート寄りの商品は不得意なんですよね。でも、アートは便利ではないけれどニーズがあるもの。それで日本の会社があまりやっていないアート寄りの事業をやるのがいいと思って、いまのモノ作りをしています。ただアート一辺倒でも商売としては難しいので、アートと便利なものの中間ぐらいを作りたいと考えて、だんだん実用的な商品作りが増えていきました。
2012年に作られたPUEBCOのカタログ。 調査レポートの体裁は、紙選びと綴じ方にも現れている。
商品の解説ばかりではなく、
読みものとして意義のあるカタログを。
—カタログもこだわりを持って作られているのが印象的です。例えば、2012年に出された調査レポートのカタチをしたカタログは、ひとつの商品に対してひとつのキーワードを用意して、読みものとして愉しめる構成になっていました。カタログはどのように作られているのでしょうか。
カタログは一番最初にテーマを決めています。この時は、ひとつひとつの商品に対して説明をすればするほどつまらなくなりそうだったので、〈PUEBCO〉という会社が発信するレポートを作りたいと考えました。ただ、僕は文章が得意ではないし、誰かに伝えてできるとも当時は思えなかった。もちろん、文章がないとレポートになりませんよね。そこでリサーチ会社に情報を集めてもらって、それを編集することにしたんです。それぞれの商品に対して、全然関係なさそうだけど、僕の中ではカスっているテーマを決めてレポートとしてまとめました。
象やうさぎ、リスなどをモチーフにしたゴム製の動物アイテム「Rubber Animal」を紹介するトップページ。
テーマは「動物が人に与える癒し」。次ページに商品写真が掲載されている。
例えば「ラバーアニマル」という動物の商品ページであれば、「動物が人に与える癒し」というテーマにしました。リサーチ会社が大量に集めてくれた、出典が明確な記事を編集していく作業でしたね。自分の興味があるものだけだと偏ってしまうので、数ある商品に対して、読み手が面白いと思ってくれる「趣味のスイッチ」を考えるのが大変でした。
カタログの「Artificial Birds」のページ。
鶏肉加工工場で以前は廃棄処分されていた羽をリサイクルして作られていることが書かれている。
ただ、中には本気のテーマもあるんですよ。「アーティフィシャルバードの作り方」というページがあって、たぶん、僕はこれがやりたかったんだと思います。アーティフィシャルバードというと可愛らしいイメージがありますよね。でも、どうしても可愛いビジュアルを持ってきたくなかったんです。というのも実際は、鳥を加工するときに出た羽を利用して作っているんですよ。この写真、生々しいですよね。このページは好きなページです。
チェコ、ドイツを旅して田中さんが撮影した写真の1枚。
商品「Wire Basket」に対して、テーマは公園。
商品やテーマを伝えるために、
写真のアングルを探る。
—ビジュアルはどのように探したんですか?
写真は古い書物から見つけ出すか、それらしいビジュアルを撮りに行きました。入稿が近づいても写真がなかなか揃わなくて、テーマに合うビジュアルを探しにチェコとドイツまで行きました。当時、周りの仲間にチェコがいいという人が多かったんですよね。あてもなくバスに乗って旅をする出張でした。目的地はどこでもいいんだけど、そのビジュアルがどこにあるかはわからない。人に話すと楽しそうだと言われるんですけど、なかなか苦しい旅でした。ただ、そのためだけに行くのも嫌だったので、取引をしているドイツの会社にも寄って、商談後はドイツの街を彷徨いながら写真を撮っていました。
—商品の撮影もご自身でやられていたそうですが、作り手の視点で撮ることを意識していたからですか?
この頃は、写真はほとんど自分で撮っていましたね。正直にいえば、もともとは経費削減ですよ。ただ、商品の特徴が一番感じられるアングルが求められるので、それがずれていると、いや、こっちの面のほうがいいでしょ? となりますよね。その視点が合う人を見つけるのが大変だと思っていて、それを探すぐらいなら自分で撮ってしまえ、と。いまは見つかったので、物撮りはある程度、お願いするようになりました。
2010年のカタログは、1/1スケールで商品サイズがわかる構成だった。
こちらは「Industrial Mitten」のページ。
リスクが大きい商品を作ることは、
バカの特権として利用した方がいい。
—マス向けの生活雑貨メーカーが台頭するなか、〈PUEBCO〉がブランドとして大切にしていることは何ですか?
これは、よくお話をさせてもらうんですけど、ショッピングモールってつまらないと思うんですよね。各店の売上が共有されているらしくて、あの店であの商品が売れているから、うちにも似た商品を仕入れようということになる。結果的に、同じような商品を同じようなサイクルで売ることになって、それぞれの店に個性がなくなり、面白くなくなっていく。それを避けるために、ある程度、個性のあるものを作らないと、うちの意味がないとは思っていますかね。大型生活雑貨店の商品が支持されていても、同じものを作っていては、我々は多分生きていけない。そこで売ってないもの、もしくは、そこで満足できない人のための会社でありたいと思っています。
フリーマーケットで見つけたマネキンの頭を鋳物で作ったという「Mannequin Door Stopper」。
きっと売れないと言われるだろうと、田中さんがスタッフに相談することなく作った商品。
—リスクを背負ってでも面白いものを作る、ということですね。
例えば、マネキンのドアストッパーなんかは、最初から売れないだろうと思っていて、実際に作ってみたらやっぱり売れなかったものです。でも、こういうバカバカしい商品は、どうしても何個か入れておきたいんです。リスクが大きい商品を作ることは、バカの特権だと思っているんですよね。大きな会社はマーケティング調査をしてものを作りますよね。でも、バカは、これが作りたいから作ろう、と言える。それは特権として利用した方がいいと思うんです。うちが一番最初に販売した鳥の商品も、マーケティング調査をしていたらきっと生まれなかった。僕らみたいな会社がやる意味があった商品だと思っています。だから、いいと思えば作るとことを重視したいなと。まあ、そればかりやっていたら本当のバカになってしまうので、時には考えますけどね。
世界のフリーマーケットを歩いて面白いものを探し、クオリティと価格の両面で質のよい商品を作るために工場とのやりとりを繰り返す。そして、ときにはリスクを背負ってでも、いいと思うものを作る。〈PUEBCO〉が個性のある商品を作り続けられるのには、そんなモノ作りに対するマインドが背景にあるのだと感じました。アートと日用品の間を目指す〈PUEBCO〉のアイテムは、大量生産の商品が増え、人気商品を扱う店が増えることで、均一化しつつある生活空間に、自分らしさを与えてくれるのではないでしょうか。今後の〈PUEBCO〉の新作にも、期待しましょう。
(イラスト:榎本直哉)
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