モデル兼イラストレーターの香菜子さんが手がける〈LOTA PRODUCT〉は、今年で10周年。節目の年に、実は10年以上前から始まっていた香菜子さんのものづくりと、〈LOTA PRODUCT〉をきっかけに広がってきた香菜子さんの活動についてお話を伺いました。
ストイックな子育ての合間を縫って始めた、
子どものための小さなものづくり。
娘さんのベビーカーのカバーを赤×白のストライプに(左)。
「たしか元々は熊さんの柄でした」と香菜子さん。
〈LOTA PRODUCT〉の商品化第一号は、着丈の長い子ども用エプロン(右)。写真は息子さん。
香菜子:『娘(第一子)が生まれた当時は、既製の赤ちゃん用品が全然かわいくなくて。自分が気に入っていないものを娘に使わせるのが嫌で、ベビーカーのカバーを外して好きな生地を縫い付けたり、ベビー布団を手作りしたりしていました。これが〈LOTA PRODUCT(ロタプロダクト)〉の前身ですね』
EDIT LIFEの人気商品「Wish upon a star POSTER」。「Wish upon a star, go with a flow,go with your mind…」=「そんなに悩まず、流れにのればいいんじゃない?」というメッセージが込められている。
美大で陶芸を学ぶ傍らモデル活動をしていた香菜子さんは、大学卒業から1年後、23歳で第一子を出産。当時勤めていた陶芸教室やモデルの仕事を辞め、子育てに専念することを選びます。
香菜子:『ちょうど夫の仕事がとても忙しい時期で、孤独感は少しあったかな。若いし初めての子どもだから、割とストイックに「きちんと子育てしなきゃ」と思って、実際にそうしていました。娘が寝ている間にするちょっとしたものづくりと、自転車を走らせて近所のパン屋さんで菓子パンを買うことがその頃のささやかな幸せでしたね』
〈LOTA PRODUCT〉のソイキャンドル、バッチ、ふくろうのイラストが描かれた大判のハンカチ。
どれもプレゼントにおすすめ。*バッチはなくなり次第、販売終了。
実はこの頃、趣味でものづくりをしている香菜子さんを見ていた旦那さまから「何かを作るんだったらロタという名義でやれば?」とアドバイスがあったのだそう。
香菜子:『旧姓が『田尾』なので大学時代は『タロウ』と呼ばれていたんです。それをひっくり返して『ロタ』。イタリアには縁もゆかりもないんだけど(笑)、イタリアっぽくていい名前だなぁと思ったんですよね。そこから、あくまで私のなかでの〈LOTA PRODUCT〉名義のものづくりが始まりました。娘が産まれた翌年、1998年のことです』
第二子誕生を機に変化した子育てへの意識。
ものづくりが加速する。
取材は香菜子さんのご自宅にて。
香菜子さんのセンスが随所に光る、広々とした心地いい空間。
趣味で作っていた〈LOTA PRODUCT〉のアイテムを商品として販売するようになったのが、今からちょうど10年前の2007年。香菜子さんが子どものために作っているアイテムを見た友人のひとり、代々木にあるイタリアンレストラン『LIFE』のオーナーシェフである相場正一郎さんに「お店に商品として置いてみないか」と誘われたことがきっかけです。
『LIFE』で取り扱っていた、〈LOTA PRODUCT〉初期のアイテム。
みつろうキャンドル(左ページ下)は、現在ではソイキャンドルにアップデートされた。
香菜子:『2005年に息子(第二子)が産まれて、子育てに対する意識が変わったんです。母親としての責任感から一人目の子どもは誰かに預けるなんてできなかったけど、二人目となると余裕が出てきたんでしょうね。『ちゃんと子育てしなきゃ』という強迫観念が消えて、シッターさんにお願いしたり一時保育を利用することで生まれた時間を、自分のために使うようになりました。ものづくりをする時間も増えたんですよ。これは、子どもがご飯のときに洋服を上下とも汚すことに怒ってしまう自分が嫌だったから、着丈を長めにした子ども用エプロン。子どものためのようでいて、自分の心もちょっと楽になるアイテムです。これが〈LOTA PRODUCT〉初の商品になりました』
雑誌『Base』で、当時の香菜子さんと息子さんの姿を発見。
相場さんがなぜ香菜子さんが作るアイテムを取り扱おうと考えたのかが記されている。
『LIFE』では、この子ども用エプロンのほかにTシャツやエコバッグなどが扱われました。しかし販売するとはいえ、当時、販路はこのレストランだけ。〈LOTA PRODUCT〉のアイテムは全部手作りなので「正直、割に合わない」ものづくりでしたが、「単純にものを作ることが好きだったから」続けられたのだといいます。
ものづくりやイラストの仕事が、
子育ての息抜きになった。
相場さんのレシピブック『DELISIOUS LIFE』。
表紙はもちろん、中面のイラストもすべて香菜子さんが担当。
香菜子:『相場くんとの縁は商品の取り扱い以外でも続いて、2008年には彼のレシピブック『DELISIOUS LIFE』(UTRECHT)にイラストレーターとして参加することになりました。それまでイラストの仕事なんてしたことがなかったから『なぜ私に?』って思ったけど、彼は高校時代からの友人だから、美大受験のためにデッサン教室に通う私を見て絵が描けると思っていたんでしょうね。実際には私は陶芸科に進んだわけですけど(笑)。初めての打ち合わせで連れて行かれたのがamanaのオフィス。他のスタッフも第一線で活躍している人たちだったので緊張しましたが、やるからにはちゃんとやろうと思って。試行錯誤して、でも楽しみながらみんなで作りました』
娘さんが生まれた頃に描いたイラスト(左)と、『DELISIOUS LIFE』表紙の原画(右)。
そして『DELISIOUS LIFE』の完成後、六本木蔦屋で行われた出版記念イベントに〈LOTA PRODUCT〉のアイテムを置いたことが、ブランドがまたひとつ成長する契機になります。
香菜子:『蔦屋の方が気に入ってくださって、定期的な取引が始まったんです。確か象のぬいぐるみを置かせてもらっていたんですけど、在庫がなくなったら注文が入って、そのたびに大急ぎで作るの繰り返し。大変でしたけど、それも子育ての息抜きみたいで楽しかったですね』
玄関には「Fonti disegnate POSTER」が。
「心の余裕、時間の余裕はあなたの生活に安らぎをもたらす」というメッセージが込められている。
これ以降、〈LOTA PRODUCT〉は子ども用のエプロン、Tシャツ、ぬいぐるみ、バッグなどから大人用のエプロン、キャンドル、ポスター、ハンカチと少しずつラインナップを増やしていきます。
無香料のソイキャンドル。燃焼時に有害な物質が出ず、ススも出にくいので、子どものいる家庭でも安心して使える。
香菜子:『初めは子どものために作っていましたが、除々にお母さん向けのものの割合が増えてきました。もちろん子どもは大切だけど、子どもを見守るお母さんが疲れていたら元も子もないなと思って。子育て中のお母さんは忙しいから余裕がなくて息が詰まりそうになることもあると思うけど、そんなときに〈LOTA PRODUCT〉のアイテムが少しでも心を軽くしてくれたらと思っているんです』
16年ぶりにモデル事務所に所属。
等身大の自分でいられる今。
娘さんを出産後、10年以上モデル活動をしていなかった香菜子さん。専業主婦歴は意外と長い。
〈LOTA PRODUCT〉がブランドとして認知され始め、イラストレーターとしての仕事も少しずつ増えてきた頃、香菜子さんはついにモデル活動を再開します。
香菜子:『これも〈LOTA PRODUCT〉がきっかけ。出版記念イベントの1年後、私が33歳のときに木工作家の友達がイベントをするから出店しないかと声をかけてくれて。このときイベントに遊びに来ていた『ナチュリラ』編集部の方にスカウトされたんです。それから読者モデルとして誌面に出させていただくようになりました』
初の書籍『普段着BOOK』。
香菜子さんのコーディネートに欠かせないアイテムやファッションのテクニックが掲載されている。
毎号のように誌面に登場し、私服コーディネートを披露するうちに、読者からの支持を得た香菜子さん。2013年の4月にはついに初の書籍『普段着BOOK』(ナチュリラ別冊)が、同年10月には第二弾『普段着BOOK 秋・冬』(ナチュリラ別冊)が出版されます。そしてこの頃、香菜子さんは以前とは違うモデル事務所に所属。なんと16年ぶりに、本格的なモデル活動を再開するのです。
ポスターシリーズ最新作「Balanced perfectly POSTER」。
こちらに込めたメッセージは、「危うく見えるけど、お互い支え合った絶妙なバランスです」。
香菜子:『嬉しいことに今はただのいちモデルとしてではなく、“香菜子”としてのお仕事の依頼が増えています。20代前半にモデルをしていた頃は、常に『痩せなさい』『ショーなら背を高く、スチールなら低く申告しなさい』と言われることが、自分じゃない自分を演じているようで辛かった。でも今は等身大でいられるから、すごく楽なんです。自分自身もいろんな経験をしてきて、嫌なことを無理してやってもいいものができないとわかったから、いろんな振り分けも上手にできるようになったんでしょうね。事務所もそんな私を理解してくれているので、本当にありがたいと思っています』
好きなことを本気でやることが
次の道に繋がる。
ポスターシリーズの原画。イラストレーターとしての仕事の原画とともに、ファイルに納められている。
香菜子:『そのときにやりたいことをずっと続けていたら、今があるって感じなんですよね。好きなことをやっていると、いつか何かに繋がるんだなと実感しています。いろいろ考えちゃうと逆に何もできないかもしれない。本気でやっていると、次に本気で取り組みたいことが見えてくるんだと思います』
すっきり片づいた香菜子さんの仕事部屋。仕事と家事をする時間は、きっちり区切っているのだそう。
「たまにはおでんを煮込みながら仕事をすることもあるけどね」と香菜子さん。
子どものために始めたものづくりが〈LOTA PRODUCT〉に、さらにイラストレーターやモデルの活動へと繋がった香菜子さんの“これまで”。「頼まれたことをやるっていうのを繰り返しているだけなんです。昔から小心者だから、100%じゃなくて120%くらいの気持ちで返さないと怖くて」と笑いながら話す香菜子さんの言葉が、なんだかすっと腑に落ちた取材でした。現在は、この夏から新たに立ち上げるプロジェクトの準備に大忙しだという香菜子さん。プロジェクト立ち上げの際には、EDIT LIFEでも改めて紹介させていただく予定です。香菜子さんの“これから”がどんな形になっていくのか、お楽しみに。
(写真:田上浩一 文:宗円明子 編集:松尾仁)
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