作家の西加奈子さんが、第152回直木賞を受賞しました。「EDIT LIFE TOKYO」では、受賞作『サラバ!』の発売を記念して2014年の9月26日から12月28日まで、西加奈子絵画展「サラバ!」を行っていました。また、10月31日には「西加奈子×山崎ナオコーラ×小林エリカ」のトークショーを開催。展覧会が終わった後もファンの方に楽しんでいただくため、その一部をムービーで公開するとともに、当日、控え室で行ったスペシャルインタビューを掲載します。3人は海外旅行を一緒にするほどの仲良し。旅の思い出から日本文学界を取り巻く環境まで、ざっくばらんに語っていただきました。それぞれの創作活動の一端も伺い知ることができるので、ぜひご覧下さい。
日中の作家シンポジウムで、
3人の交流が始まった。
左から西加奈子さんの『サラバ!』(小学館)(上)、山崎ナオコーラさんの『太陽がもったいない』(筑摩書房)、小林エリカさんの『マダム・キュリーと朝食を』(集英社)。3人ともご自身で表紙の絵を描いている。
西 2006年の年末に日中青年作家会議という、日本と中国に住む作家のシンポジウムが北京であって、そのメンバーとして、空港で会ったのが初対面やんな。外国のシンポジウムなんて初めてで、めっちゃ緊張した~。
山崎 20代の終わりだったよね。
西 あのとき、初めて同年代の作家に会ったんよね。覚えているのは、ナオコちゃんに「はじめまして」って挨拶をしたら、すごい、うちのおでこを見てたこと。「どうしたの?」って聞いたら、「私、前髪を切り過ぎたから、人の前髪が気になる」ってずっと言ってて、めっちゃカワイかった。
山崎 加奈子ちゃんは、いろいろ話しかけてくれて、最初から親しみやすかった。エリカちゃんの印象は「英語がペラペラ!」
小林 記憶が、塗り替えられてるね(笑)
山崎 そんなことないよ。CAさんが来た時に、「私は、食事はいらないです。飛行機では食べないことにしていて」って言ってたの。
小林 頑張って気張ってたの(笑)。
小林エリカさんの著書『マダム・キュリーと朝食を』の原画。著書は、第27回三島由紀夫賞候補、第151回芥川龍之介賞候補にノミネートされた。
山崎 ハイセンスな人だと思ってたら、だんだん、おとぼけなところが出てきて(笑)。
西 あれから仲良くなって連絡先を交換して、一緒にご飯を食べたり、遊ぶようになった。そうこうしているうちに、エリカちゃんがACC(Asian Cultural Council:アメリカとアジア、アジア諸国間での国際交流を支援する非営利財団)でニューヨークに行って。
小林 ニューヨークに、ふたりが訪ねてきてくれたんだよね。
西 ナオコちゃんとはチベットも沖縄も上海も一緒に行ったよね。ふたりとは、仕事とは関係なく、行きたいところに行く関係。うちらの職業って平日でも、旅に行けるから、すごく誘いやすい。旅先で、うちは写真をバシバシ撮んねんけれど、ナオコちゃんは全然写真撮らへんよね。
小林 ナオコちゃんはメモを取るんだよね。中国の空港に降りたった瞬間にも書いていたから「何をメモしたんだろう?」って気になってた。
西 中身は知らないんだ?
小林 聞いちゃいけないと思って……。
山崎 「着いた」とか、それくらいだったかもね(笑)。写真が嫌いなので、メモを取るの。エリカちゃんはどうしているの?
小林 私はドローイング。たまに写真を撮るかな。
小林エリカさんの漫画作品『光の子ども』に登場するイラスト。『光の子ども』はリトルモアのWEB連載ではじまり、加筆・修正が加えられて第一巻が2013年12月5日に発売された。
西 うち、サンフランシスコで、エリカちゃんが酔っぱらってるの初めて見た!
山崎 エリカちゃんはお酒に弱いんだと思う。もぬけの殻になってた。
小林 本当に?ひどいね……。
西 割り勘をできへんかったんよな、確か。
山崎 お金をしまえなくて、結局、ホテルのテレビ台にチャリンって置いてた。
西 3人で、ダブルベッドをくっつけて寝ようとしたんだけど、ベッドがすごく高かったから、エリカちゃんが上がれんくて、「あ〜ダメだぁ」って言って寝たんよ。
小林 抹殺したはずの記憶が、フラッシュバックしてきた……。
西 サンフランシスコの後、当時エリカちゃんが住んでたニューヨークじゃなくて、いっしょに日本に戻ったよね?免許がどうとかで。
小林 国際免許を取るのを忘れちゃって。
西 ナオコちゃんとうちは、先にサンフランシスコに着いて、ケーブルカーに乗ったよね。それで、蝋人形館に入ってん。
小林 占いもしたんでしょ?
西 入った瞬間、占い師がドーナツを食べてて、最初から怪しかったんやけど、何も見ずに、「額がただれる」って言われてん。「あんた、前世で不倫して、不倫相手の奥さんからめっちゃ恨まれているから、100ドル払ってお祓いせえへんと、おでこがただれる」って。ナオコちゃん見てもらう気満々やったんやけれど、「やめとき」って止めた(笑)。
小林 加奈子ちゃん、すごい彫りのあるトランクを持ってたよね。洒落てるなって思った。
山崎 カスタマイズしているトランクを持っていて、カッコよかった。
西 アーティストに、鳥の絵を彫ってもらったやつな。今はもう持ってないけど。ジャズを聴きに行く時、ジャズだから「ええ靴を履かな」と思って、エリカちゃんにブーツを借りたんだけれど、細すぎて入らへんかったの。覚えてる?
小林 全然記憶にない。
山崎 ほんとうに加奈子ちゃんは、記憶力がいいね。
西 自分でもひく(笑)。うち、エリカちゃんの家に、花が飾ってあったこととか、家のことも全部覚えてるんよ。ほんま素敵やったわ。
山崎 床にアイロンの跡が付いてたのは、私も覚えてる。あと、ちゃんと朝、小説書いてたよね。
小林 本当に?日記じゃないかな。
山崎 ちゃんとパソコンに向かってたから、日課で書いてるんだ、すごいなって思ったの。
創作スタイルと、
仕事スイッチの入れ方。
山崎ナオコーラさんの『太陽がもったいない』の発売を記念して開催された、イラスト特別展示「大太陽がもったいない展」の様子。
――みなさん、いつ書くとか仕事のルールはあるんですか?
山崎 私は決めてないから、あまり仕事ができてないです(笑)。
西 うちも決めてない。たとえば朝やるって決めると、できへんかったら心が苦しいねん。だから決めへん。「ちょっとでも時間が空いたらやる」っていうふうに変えたらすごいラクになった。
小林 私は午前中に書く。
山崎 スタバに行くんだよね。
小林 作家っぽいから「喫茶店で書いてる」って言ってるんだけど、スタバに毎日行って(笑)、バッテリーがなくなる昼ぐらいまで書いてる。その割には進まなくて……。
西 何時間?
小林 3、4時間。
西 その集中力、えぐいな。
小林 でも、集中力は3時間がマックス。
西 午前中に終わったら?
小林 午後は、時間がかかるマンガの作業にあてたり、メールの返信をしたり。
西 午前中がいちばん冴えてるんだね。
小林 だんだん午後になると頭がぼんやりしてくるから、午前に考えるようにしてるの。
――やる気を出すための、スイッチはありますか?
西 私はプロレスかな。気合いを入れるために見る感じ。しんどいけど書かないといけないときとか。
山崎 YouTubeで?
西 うん。DVDだとずっと見てまうから、その日が終わってしまう(笑)。最近は、三沢光晴選手と蝶野正洋選手の入場シーンだけを見んねんけど、めちゃめちゃいい顔してんねん。
山崎 どうすごいの?
西 ノアっていう団体と、新日(新日本プロレス)っていう団体が、それまでは交わることがなかったのに、初めてそれぞれの代表が、会社を背負って戦うねん。新日のリングで初めて、ノアの三沢のテーマ音楽「スパルタンX」がかかって、三沢が歩いていくんやけど、いい顔してんねん。「うち、あんな顔したことあるかな」って思わせてくれるくらい。それを見たら、今はたいがいの嫌なことは忘れられる。プロレスがあって、ほんとうに良かった。ナオコーラちゃんも、そういうスイッチある?
山崎 私は、普通にぬる~っと始める。
西 すごいなあ。
小林 でもすっごい落ち込んだときは、どうするの? 庭遊び?
山崎 ベランダ園芸は好き。ホッとする。
西 枯らすことない?
山崎 そりゃ、いっぱいあるよ。
西 ショックで、人間としてダメな気ぃせえへん?
山崎 枯れるか枯れないかは、私のせいで起こることだから。「これが死か」って思うけど、その過程を経ることによって視点が変わって、自分にとっての救いになっているところもあるのかも。
小林 間引きはつらいって言うよね。
西 「間引くのは、どう選ぶん?」ってなっちゃうもんね。
山崎 どうしようもないことだから、適当に抜いてる。間引きのときは、「自分という者は、そういう悪魔みたいな存在なんだ」って感じる。
西 自分を見直すきっかけになるんやな。
山崎 そうそう。ベランダ庭園をしていて、いちばんうわ~って思うのは、芽吹き。
西 かっこいい! お花も植えてんの?
山崎 バラを。
小林 私も、アンネフランクっていう種類のバラを鉢で育ててる。枯れたらどうしようかと思ってたけど、今はまだ元気。3個くらい咲いたかな。ナオコーラちゃんの本に、バラの病気のことが書いてあったでしょ? かかったらどうしようって、いつも気になってて。
山崎 小麦粉病ね。なんでかは分からないけど、急に粉を吹いたみたいになるやつ。
小林 今は、それが心配。
西 バラは難しいんちゃうん?
山崎 わりと勝手に咲いてくれるよ。かわいくて、ハマると奥が深い。
山崎ナオコーラさんの『太陽がもったいない』のイラスト特別展示「大太陽がもったいない展」は、西荻窪のbeco caféで9月1日から29日まで開催された。
――ナオコーラさんは、毎日、散歩されると書かれてますよね。
山崎 はい。決まったコースがあって、散歩しながら、アイデアを思いつくこともあります。
西 猫みたい。
小林 ほんと。毎日決まった時間に歩くの?
山崎 うん。
西 同じコースを同じ時間に歩くのは、ジンクスみたいなもの?
山崎 毎日違うところを歩くの、大変じゃん(笑)。
西 なんでその道なん?好きなん?
山崎 好きかって聞かれると、そうかもしれないけど。歩きやすいからかな。散歩することが、会社に行くみたいなものだから、毎日同じルートを歩いてるの。水木しげるさんが、「結局、場所に住むっていうのは、ただの運命だから、好きも嫌いもない」って言ってて。だから私も好きも嫌いもなくて、ただそこを歩くことになっちゃっただけ。
西 何分くらい歩くん?
山崎 1時間くらい。
西 かなりの距離だね。
山崎 加奈子ちゃんも歩くでしょ? 歩きながら小説を考えるの?
西 逆に、頭を真っ白にするために歩いたり、走ったりする。
山崎 机の前で考えることもある?
西 パッと思い浮かぶのはお風呂の中とかやけど、考えるのはパソコンの前。エリカちゃんの仕事スイッチは?
小林 ミュージカルかな。
山崎 初耳。
小林 Youtubeで『アニー』をよく見てるよ。号泣! 舞台も映画もすごくいいの。
西 『アナと雪の女王』も好き? 歌ったりする?
小林 歌えるけど、歌わない。
西 エリカちゃんは、職場に行ってるもんな。
小林 そう。共同でアトリエを借りてて何人かいるところで書いてるから、まじめに仕事してる風にしてるけど、コソコソ『アナ雪』とか聴いてるの。
西 エリカちゃんがミュージカル好きなのは、知らんかった。うちのプロレスみたいなもんやな。
小林 プロレスの方が好きってカッコよくていいな。どうしたわけかミュージカルが好きって言うと、ドン引きされちゃうのよね……。
西 そんなことないで。うち、『アニー』見たことないけど(笑)。
いまの作家業界は、
プロレス界のように熱い。
西さんが『サラバ!』の発表とともに描いた絵画。2014年の9月26日から12月28日まで、EDIT LIFE TOKYOにて絵画展『サラバ!』が開催された。小説に出てくるモチーフがギャラリーに登場。絵画は EDIT LIFE TOKYOのEC STORE(https://editlife.stores.jp)で現在も購入可能。
――プロレス好きの西さん。中でもアントニオ猪木選手と三沢光晴選手のことが大好きとのことですが、このふたりは、西さんにとって、どういう存在なんですか?
西 猪木は、プロレスの神様みたいな感じ。でも、歳を取ってくると、三沢選手のすごさが改めて染みてくる。猪木はスターだけど、三沢選手は、全日(全日本プロレス)という比較的オーソドックスな団体の所属だから、正直、猪木のような派手さはないねん。でもな、三沢には男気がある。プロレスラーって怪我が多いから、保険に入りにくいし、入れたとしても、ものすごく高いの。それなのに、三沢は自分のとこに来た選手全員、保険に入れた。そのお金のために家まで抵当に入れて。そういうところが、めっちゃええねん。プロレスの話ばっかり、ごめんな。
山崎 いいよ、どんどん突っ走って! ちょっと理解できないとこもあるんだけど(笑)。
西 うちは今、作家界はプロレス業界と似ていると考えててな。いい選手が揃ってて、さらに、ヒールもおる!
山崎 ヒール、いるね(笑)。
西 プロレス界は、個性のあるいい選手がたくさんいるから、今、めっちゃ盛り上がってんねん。だから、小説界も絶対にこれから“来る”と思ってるねん。
小林 作家界も、それぞれ個性が立ってる人が多いよね。
山崎 でも、まだ来てない?
西 ちょっと低迷してるやん。新日も、前までは空席も目立っててん。でも、この数年、東京ドームはギッチギチに埋まるし、西武ドームでも興行してるねんな。なんでかって、めちゃめちゃ頑張ってきた選手たちがいたから。ある選手が、東京ドームで「プロレス信じてやってきてよかったです」って言ってて。うち、この話、いつか本屋さんでしたいと思ってるねん。
小林 いいね。
西 作家業界で、何が勝ちかはわからんけど、どんどん本屋さんで小説の棚が減ってるやん。それがめっちゃギッチギッチになるってすごない? みんなの作品が5万部、10万部って売れていくとか。売れることだけがすべてじゃないけど。あと、電車に乗ったら、みんな本読んでる景色を見てみたい。みんなで頑張って作家業界を盛り上げたいって感覚だから、うちだけ売れても意味ないねん。うちら3人以外も小説家同士って仲がいいし、旅行も行くし。ライバルっていうよりは、同志って感じよね?
山崎 ライバルではない。
小林 あまりにも個性が違うから、比べるものでもないし。
山崎 加奈子ちゃんが言うように、作家業界が低迷してる中で、小さな枠を取り合ってもしょうがない。みんなで連帯して、本屋さんを盛り上げることのほうがずっと意味のあるものになる。
絵画展『サラバ!』は、最初はこのようにばらばらに展示されていた。著書『サラバ』の表紙は、このバラバラの絵が組み合わさってデザインされている。
西 まず、本屋の日本文学の面積を増やしたいねん。付録付き雑誌のコーナーを全部、本にしたい。もちろん、付録付き雑誌も素敵なんやけど、本屋さんに本がずらっと並んでるのを見たい。そのためには、自分だけ売れるというのも違う。うちひとりが文学じゃないっていうか。『サラバ!』にも書いたんやけど、わたしの本が嫌やったら、他の人の本を読んでくれたらいいねん。もちろん自分の本は売れてほしいし、もらえるもんなら賞も欲しい。でも、自分の本がすべてじゃない。
山崎 ほんとに。たとえば、淡々とした小説を書いているとすると、そうした小説ばかり読んでいるんじゃないか、違う作風には批判的な立場なんじゃないかって思われがちだけど、読む本のセレクトはさまざま。いろんな小説を読むし、全部好き。ただ自分が仕事をするならこれ、というものがあるだけ。他の人が私にはできない仕事をしてくれるから、自分はやる必要がないんだって思う。
西 ナオコーラちゃん、エリカちゃん、他にもいろんな人がいて、それぞれの個性で書いてくれるから、うちは全力でうちのことを書ける。それが心強いねん。いつか、本屋の日本文学の面積がめっちゃ増えて、みんなで「作家をやってきてよかったです」って言えたら、嬉し過ぎて泣いてまうやろな。
MOVIE:DAICHI ITO
PHOTO(Part of Kanako Nishi):SATOKO IMAZU
TEXT:SAKIKO KOIZUMI
EDIT:HITOSHI MATSUO
SPECIAL THANKS:RYOICHIRO HONMA
「EDIT LIFE TOKYO」で開催されていた西加奈子絵画展『サラバ!』は閉幕しましたが、EDIT LIFE ONLINE STOREでは引き続き、西さんのサイン本、絵画、スペシャルグッズの販売を行っていますので、ぜひチェックしてみてください。『サラバ!』に出てくるモチーフが登場するので、きっと小説の世界がより楽しくなると思いますよ。