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昨年夏、雑誌『&Premium』の取材とEDIT LIFEの買い付けで岐阜県を訪れた福田春美さん。この旅で、福田さんがどうしても訪ねたかったのが、彼女が自宅でも愛用しているという器の作り手・青木良太さんです。青木さんはファッション業界とのコラボレーションなども積極的に行い、国内外から注目されている若手陶芸家のひとり。彼が陶芸家になったきっかけから、今年に入ってから始めた薪窯での作品制作まで、笑いが絶えなかった取材当日の様子をお届けします。

「1日は24時間あって、大きく3つにわけることができる」

福田春美さん(以下、福田):はじめまして! 自宅で青木さんがつくられた白いピッチャーを愛用させていただいています。今回は岐阜に来る機会があったので、どうしてもお会いしたくて訪ねてきてしまいました。

青木良太さん(以下、青木):ありがとうございます。どうぞよろしくお願いします。

福田:陶芸家の方は静かな空間でろくろを回されているというイメージを抱いていたんですが、青木さんは音楽をかけて行われているんですね。しかもけっこうな音量で(笑)。

青木:はい、音楽があるほうが集中できるのでいつもこんな感じです。

福田:お伺いしたいことがたくさんあるんですが、まずは陶芸家になられたきっかけから教えていただけますか? 岐阜県出身というわけではないんですよね?

青木:高校卒業までは富山にいて、大学入学で愛知に来ました。経営情報学部で中小企業の経営者になるための勉強をしていたというと聞こえがいいんですけど、実は全国の私立大学で下から2番目の偏差値。楽しく過ごしていたんですが、気づいたら20歳になっていてようやく将来のことについて考え始めたんです。1日は24時間あって、大きく3つにわけることができる。8時間は仕事、8時間は睡眠、8時間は好きなことをする。じゃあ好きなことを仕事にできれば最高じゃん! と思って、好きなことを探し始めたんです。最初はファッションに興味があったので洋服を作ろうと中古のミシンを買って独学で勉強して。そうすると委託で扱ってくれるお店ができたんです。

福田:独学からスタートしたのにすごいですね

青木:でも徐々に「私のサイズで作ってください」と注文が来るようになったので、これは労力に見合わないぞ、と(笑)。だから洋服は趣味にすることにしました。次に始めたのがアクセサリー作りです。

福田:お会いしたときからピアスが素敵で気になっていたんですが、それも手作り?

青木:そう、これは大学時代に作ったものです。売ると小遣い稼ぎになるんですけど、金属が肌に合わなくてこれも断念しました(笑)。

福田:それは致命的ですね(笑)。1日を3つにわけるとか、労力と対価が見合わないと考えられたと伺って、ビジネス感覚をお持ちなんだなという印象を受けました。それは大学で学んだことが関係されているんですか?

青木:そう思います。これまで勉強なんて好きじゃなかったけど、大学で初めて勉強が面白いと思いましたから。大学では経営戦略ゼミに入ったんです。たとえばコンビニ業界で2番手の企業を選んで1番になるためにはどうすればいいのかということを自分なりに戦略を立てて分析する勉強をしました。勉強したことを実践すれば、お金に繋がるということが理解できて面白かったんですよ。

福田:なるほど。アクセサリー作りのあとは?

青木:ちょうどその頃、カリスマ美容師ブームがあって、美容師はモテそうだという不純な動機から美容室でアルバイトを始めました(笑)。楽しく働いていたんですが、休みの日になんとなく近所の雑貨屋を見ていたら、手の跡がついたような無骨な器が並んでいたんです。渋いなぁと思って、軽い気持ちで陶芸教室に参加しました。年配の方が来るような教室でしたけど、湯のみを作らせてもらって。そのときになぜか「これしかない!」って感動があったんです。

「そのときに覚悟が決まったんです。陶芸と心中しようって」

福田:へぇ! なぜそれほど惹かれたんでしょうね。土の手触りとか?

青木:よく取材でも聞かれるんですけど、言葉ではうまく伝えられません。直感でしかないと思うんです。それで陶芸家になりたいと思うようになったんですが、陶芸家って夢のような職業じゃないですか。陶芸教室に通いながら、なれるわけないと諦めかけてはやっぱり諦めきれない、の繰り返し。専門の勉強をするために今さら大学にも通えないしな、と思いながら過ごしていたら、全国の陶芸の有名な場所には陶芸の技術を教えてくれる職業訓練校があることを知ったんです。大学と違って授業料が安かったので、これならバイトで学費を捻出できると思って、必死にデッサンの勉強をして受験したんです。そしたら奇跡的に石川の九谷焼と愛知の瀬戸焼、岐阜の多治見焼の3校に受かりました。

福田:すごい。本当に必死に勉強されたんだと思います。多治見に決めた理由は?

青木:それもまた単純で、人間国宝が一番多い県だったから(笑)。入学前の数ヶ月は陶芸教室に通っていて湯のみくらいは作れるようになっていたので、学校に入ったらみんなに教えてあげられるんじゃないの? くらいの軽いノリでいたんですけど、完全なる勘違いでしたね。生徒はみんな、芸術大学や美術大学を卒業している人ばかり。最初の講義の内容も、たぶん僕だけが理解できていなかったと思います。そのときに覚悟が決まったんです。これまでずっと遊んできたから、今後は一切遊ばないで陶芸と心中しようって。じゃないと絶対プロになれない。そこから陶芸の人生が始まりました。

青木:そこからは必死です。お昼休みもご飯を5分で食べて、残りの時間は勉強にあてる。9時から17時までは学校でみっちり学んで、学校が終わったら製陶所で21時まで釉薬をかける仕事をする。そのあと21時から深夜1時まではずっと、1キロの土を何センチ伸ばせるかというろくろの練習をひたすらやりました。作っては壊し、作っては壊しと、ただその技術を上げるための練習だけをずっと。

福田:すごいストイックですね! 陶芸を生業にしていけると思ったタイミングはご自身の中でありましたか?

青木:職業訓練校を3月に卒業して同じ年の5月に個展をやったんですが、奇跡的に作品が完売したんですよ。これが契機ですかね。実はこの個展のときにはペットボトルのジュースも買えないくらい生活に困っていたんですが、陶芸の売上が入ってくるようになったから少し楽になりました。まだまだ食べていけるほどの収入ではありませんでしたが、バイトを辞めて空いた時間を陶芸に使えば必ず能力が伸びるだろうと決意して、無理してバイトを辞めましたね。

「ただ自分の欲しいものを作っているだけ」

福田:卒業して2ヶ月後に個展をやられるのはすごいことだと思うんですが、ご自身でギャラリーに営業されたんですか?

青木:そうです。最初は学生の頃に営業に行きました。あとで聞くと陶芸家で営業する人っていなかったみたいですね。僕はそれを当然だと思っていたんですが。

福田:私はファッション業界が長いんですが、青木さんと話しているとデザイナーさんと話しているような感覚になります。ファッションデザイナーって多少、経営やブランディングの組み立てもしなきゃいけないから。青木さんはそのセンスをお持ちだと思う。陶芸家の方と話していて、この感覚は初めて受けました。

福田:作品づくりにおいて、それぞれの展示ごとにテーマはどう決めてらっしゃるんですか?

青木:テーマは特にないんです。ただ自分の欲しいものを作っているだけ。世界中に陶器の歴史があるでしょう? それを知ったなかでも欲しいものがないから作っているだけなんです。だからみなさんに新しいと言われるものが生まれるんだと思います。

福田:では、作品を作るときに大切にされていることは?

青木:一番大切にしているのは、自分が感動するものを作りたいということですかね。先ほどの話に近いんですけど、感動するためには陶芸の背景を知っておかなきゃいけないと思うんです。その前提のうえで感動したらきっといいものなんですよね。作るのは僕だけど、同時に陶芸の歴史の審査員でもあると思っています。

福田:本当にディレクターに近い感覚をお持ちだと思います。器の色のインスピレーションはどこから得ていらっしゃるんですか?

青木:あそこにテストピースを貼っているんですけど、同じ釉薬でも土によってあれだけ表情が変わるんです。素材が教えてくれる色を僕がピックアップしているという感じですね。この釉薬と土の組み合わせにはどういう形がいいかなって。

「初めて薪窯に火を入れたとき、化け物かと思いました」

福田:面白いですね。青木さんは最近、これまでの電気窯だけでなく、薪窯での制作に挑戦されていますよね?

青木:元々伝統的なものが好きだったので、薪窯は憧れだったんです。使っている薪窯はなかなか効率のいい窯ですよ。4〜5日寝ずに火を焚くんじゃなくて、1日目と2日目はサラリーマンみたいな感じで8時に行って夕方の5時まで火を焚いて蓋を閉めて帰るんです。最後の1日だけ朝8時に行って、その翌日の12〜13時くらいまで焚き続けて最後の最後に窯の中の温度を上げていくという。

福田:最初に火入れしたときの印象はいかがでしたか?

青木:化け物かと思いました。火がぶわっと吹き出てくるんですよ。今までなら電気窯のスイッチを入れて「がんばれよ」と声をかけて帰っていたんですが、薪窯はこっちががんばらないと温度が上がってくれないから。

福田:これからチューニングが始まっていくんですね。そのチューニングが合っていく様子を作品として拝見させていただくのが楽しみです。

青木:薪窯は生き物のようですから、早くコントロールできるようになるといいですね。

福田:最後にひとつ。WEB上でのエキシビジョンも頻繁に行われていますよね。作家の方ってWEB上にご自身の作品を掲載することに抵抗がある方が多い印象を抱いていたんですけど。

青木:これからは世界に発信することが大切だと思うんです。東京で展示をすれば東京にいる人が見えるけど、地方にいる人は見れないじゃないですか。でもWEBならどこにいても、海外の方にも見ていただけます。作品を作ってもここに置いてあるだけなら誰も見れないし、知ってももらえません。WEBならアーカイブとして作品集にもなりますから、自分の作品を残しておきたくて続けています。

福田:その考え方もきっと陶芸の可能性を広げていくことに繋がっているんだろうと思います。今回は本当にありがとうございました。

青木さんの作品が世界中から注目されるようになった背景には、陶芸を追求し、真摯にものづくりに取り組む姿勢と、彼自身が感動するような作品を作りたいという想いがありました。新たに挑戦を始めた薪窯で、今後どのような作品が生まれていくのか楽しみです。

(写真:山崎智世、編集:松尾仁、文:宗円明子)

INFORMATION

『青木良太2016作品展』
会場:Abundante(兵庫県芦屋市精道町5-3 精道アパート301号)
会期:2016年2月6日(土)〜 2月8日(月)、2月16日(火)〜20日(土)
http://abundante.jp/2016/01/13/2125

『中国茶器展』
会場:季の雲(滋賀県長浜市八幡東町211−1)
会期:2016年2月6日(土)〜2月21日(日)
http://www.tokinokumo.com/

*青木さんは現在、お弟子さんを募集中! 興味のある方はこちらから。

あおき・りょうた

陶芸家。1978年富山県生まれ。現在は岐阜県土岐市在住。年間約15,000種類の釉薬の研究を通じて、金、銀、プラチナ等、陶芸では通常扱うことのない素材を使用し、美しい作品を生み出している。国内外での個展を中心に現代美術のアートフェアにも参加し、他分野とのコラボレーションを行うなど陶芸の魅力を世界に伝えている。http://www.ryotaaoki.com/

ふくだ・はるみ

セレクトショップのバイヤー、プレスを経て、アパレル企業のクリエイティブディレクターを歴任。現在はEDIT LIFEのほか、〈Corte Largo〉のストア&クリエイティブディレクション、ホームケアブランド〈a day〉などを手がけている。

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